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名古屋高等裁判所 昭和46年(ネ)255号 判決 1971年11月02日

控訴人 三重いすず自動車株式会社

右代表者代表取締役 赤坂義郎

右訴訟代理人弁護士 早川登

同 桑原太枝子

被控訴人 高村富平

右訴訟代理人弁護士 佐治良三

同 高橋貞夫

同 楠田堯爾

同 来間卓

同 山田靖典

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人は控訴人より金二九万〇、二三〇円を受取るのと引換えに控訴人に原判決添付目録記載の自動車を引渡せ。

控訴人のその余の請求並に当審で追加した請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

本判決は被控訴人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人は、原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し、原判決添付目録記載の自動車を引渡し、かつ金二万四、九〇〇円及びこの金員に対する昭和四六年五月一八日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする、との判決、仮執行の宣言を求め、被控訴人は本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする、との判決を求めた。

当事者双方の主張、答弁、証拠関係は次のとおり付加する外は原判決事実摘示のとおりであるからそれをここに引用する。

控訴人の主張

控訴人は昭和四五年六月一日訴外御浜砂利工業株式会社から本件自動車の引渡を受け、同月一〇日まで保管してもらい、右同日控訴人方の梅本治、田中亮夫がこれを取りに行ったところ、本件車は熊野市役所の無料駐車場、御浜砂利工業株式会社砂利採取現場、熊野消防署横の空地においてあり、前輪のエアーが抜いてあったので、控訴人の方でタイヤの交換中被控訴人方の高村飛虎志が勝手に持去ってしまった。これは所有権占有権の侵害であり刑法上の窃盗である。そこで控訴人は、原裁判所より仮処分決定を得て執行官保管に移したが、この所有権占有権侵害を理由として本訴請求をなすものである。又控訴人は本件自動車の自動車税を昭和四四年度分として昭和四五年四月二〇日に一万六、九〇〇円、同四五年度分として、同年八月一二日に九、〇〇〇円を支払ったので当審において請求を拡張し右の内二万四、九〇〇円及びこれに対する右請求を拡張した旨の記載のある準備書面送達の日の翌日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

(証拠)≪省略≫

理由

原判決添付目録記載の本件自動車を被控訴人が占有していたこと、その後、控訴人が原裁判所より仮処分決定を得てこれを執行官の占有に移したことは当事者間に争がない。

≪証拠省略≫によれば、控訴人は昭和四三年五月一〇日本件自動車を代金四〇四万五、六三二円、頭金三〇万円、残りを同年七月二六日から同四五年六月二六日までの月賦支払とする約で訴外御浜砂利工業株式会社に売渡したがその所有権は代金が完済されるまで控訴人に留保されていたこと、しかるに訴外会社は昭和四五年二月の約束手形の支払いができず、そのまま同年四月頃倒産したこと、このため控訴人は同年四月末日口頭で本件自動車の売買契約を解除したこと、一方被控訴人は熊野自動車整備工場の名で自動車修理工場を営み、昭和三八年頃から訴外会社の自動車修理に当って来たがその修理代金は従来より毎月二五日に締切り、その月末に請求書を送り、その翌月二五日に一二〇日先の手形で支払を受けていたこと、被控訴人は昭和四四年六月九日から本件自動車に対し各種の修理を加え、同四五年三月七日までに累計二九万〇、二三〇円相当の修理代債権を取得したこと、被控訴人は昭和四五年四月二日頃訴外会社より仕事を再開するがそれまで多少日数を要するから逐次修理するようにとの依頼を受け他の自動車一七台とともに本件自動車の引渡しを受け熊野消防署横においておいたこと、その後控訴人と被控訴人との間で本件自動車の引渡について接衝がなされたが被控訴人は引渡しを承諾せず、同年六月一〇日控訴人方の社員の梅本治らが熊野消防署横の空地へ自動車の引揚げに行ったが本件自動車は前車輪の空気が抜かれていて、引揚げることができず、車輪を取換えて引揚げようとしたが被控訴人の息子で従業員である高村飛虎志の反対に遭って引揚げることができなかったこと、控訴人が同年六月二六日付で原裁判所より得た仮処分決定を執行して本件自動車を引揚げたこと、被控訴人は高村飛虎志名を以て昭和四五年五月四日頃到達した書面で訴外会社に対し他の自動車とともに本件自動車について修理代債権のため留置権を行使する旨の意思表示をなしたことの各事実を認めることができる。≪証拠判断省略≫

以上の認定事実によれば被控訴人は本件口頭弁論終結時までにはつとに弁済期の来ている本件自動車について生じた二九万〇、二三〇円の修理代債権のため本件自動車に対し民法上の留置権を行使しているものであるから控訴人に対しその引渡を拒んでいるのは理由があるといわねばならない。

控訴人は本件自動車の所有権は控訴人に留保されていたから控訴人の承諾なくしてなされた修理は控訴人に対して不法行為を構成しその占有は不法に始まったものであるから留置権は成立しないという趣旨の主張をなしているが、その物に関して生じた債権担保のため物権として認められている民法上の留置権の成立には商法上の留置権の成立と異り債務者の所有物たることを要せず又留置権は物権であるから何人にも主張できるものである。しかも、前記甲一号証(自動車月賦販売契約公正証書)の第七条に自動車の修理費は買主が負担すると書いてあるのは買主の責任において修繕をなすというものと解されその都度売主の承諾を必要とするものとは解されず修繕は自動車の保存管理上必要なことで買主はそれをなす自由を有するものと解されるので修繕が控訴人に対する関係において不法なものとはいえない。従って、この点に関する控訴人の主張は採用できない。又仮処分による執行官保管は本案判決があるまでの暫定措置であるからそれを理由に留置権を主張し得ないという控訴人の主張も採用の余地がない。尚乙一号証の一、二には熊野自動車整備工場代表者として高村飛虎志の氏名が書かれているが、原審証人高村飛虎志の証言によれば、これは同人が被控訴人を代理してこの意思表示をなしたと解することができるから本件の結論に何ら影響をもつものではない。

されば被控訴人の留置権の抗弁は理由があるが、被控訴人としては被担保債権である前記二九万〇、二三〇円の支払を受けるのと引換えに本件自動車を引渡せばその目的を達するものというべくこの趣旨に出でずして控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるからこれを主文のように変更する。又控訴人が当審で追加した自動車税を支払えという主張は被控訴人がなぜこの自動車税を負担せねばならぬかということについて何らの主張をなさないのみならず、これは所有権を主張する控訴人が前掲甲第一号証第七条により御浜砂利工業株式会社に負担さすべきものであって単に留置権を主張するのみの被控訴人が負担する理由はない。従って、控訴人のこの請求は失当であるからこれを棄却する。よって民訴法三八六条、八九条、九六条、九二条但書一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村義雄 裁判官 廣瀬友信 菊地博)

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